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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1269号 判決

控訴人

吉岡巌

右訴訟代理人

伊東真

被控訴人

成田市農業協同組合

右代表者

出山弘

右訴訟代理人

半田和朗

主文

原判決中理事選任決議の無効確認およびその取消の請求に関する部分を取り消し、右部分につき本件を千葉地方裁判所佐倉支部に差し戻す。

その余の部分に関する控訴人の控訴を棄却する。

前項に関する控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「一、原判決を取り消す。二、(原判決中請求棄却部分につき)被控訴人は控訴人に対し、千葉地方法務局成田出張所昭和四七年九月一三日付をもつてなされた控訴人の理事辞任登記の抹消登記手続をせよ。控訴人が被控訴人の理事の地位にあることを確認する。(原判決中訴却下の部分につき)本件を千葉地方裁判所佐倉支部に差し戻す。三、訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠関係は、次のとおり訂正するほかは、原判決の事実欄に記載のとおりであるから、これを引用する。〈以下略〉

理由

一当裁判所は、控訴人の本訴については、理事辞任登記の抹消登記手続および理事の地位にあることの確認を求める控訴人の請求は理由がなく、この点に関する控訴人の控訴は棄却すべきものと判断するが、その理由の詳細は、次のとおり付加するほかは、原判決九枚目裏二行目から一三枚目表九行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴人が理事を昭和四七年九月一二日辞任したものであることは前記(本判決の引用する原判決の記載部分)のとおりであり、その後任として山田太一が理事に選任されたものであることは、控訴人の認めるところであるから、これにより、控訴人は農業協同組合法四一条、商法二五八条一項による理事としての権利義務をも有しなくなつたものである。

二次に、本件総代会における理事選任決議の無効の確認、予備的になされたその取消を求める請求につき判断する。

(一)  農業協同組合法が株主総会に関する商法二五二条の規定を準用していないことは明らかであるが、農業協同組合の総代会の議決に無効事由があり、かつ現に存する法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のため適切かつ必要と認められるときは、その議決が無効であることの確認を求めることができると解すべきである(最高裁判所昭和四六年一二月一七日第二小法廷判決、民集二五巻九号一五九九頁、同昭和四七年三月三〇日第一小法廷判決、判例時報六六一号五一頁、同昭和四七年一一月九日第一小法廷判決、民集二六巻九号一五一三頁参照)。

しかるに、原判決は、控訴人の総代金の議決の無効確認につき、農業協同組合法九六条が司法的判断の前審手続を定めたものであると解し、その手続を経ないことをもつて右請求にかかる本訴を却下すべきものとしたのは法令の解釈適用を誤つたものであり、これが訴を不適法として却下した原判決は取消を免れない(後記のとおり、本件総代会の議決の瑕疵は、取消事由にすぎず、無効事由にはあたらないと解すべきである。そうすれば、控訴人の無効確認の請求は理由がなく、これを棄却すべきである。しかし、原判決はこの点につき訴を不適法として却下しているので、民訴法三八八条の規定の適用上、本件を原審に差し戻さざるを得ない。)。

(二)  (なお、予備的請求の部分についての原判決の判断について念のため言及すれば、農業協同組合法九六条の規定は、その規定の趣旨および位置(第五章監督のところにある)、から見て、また、もし同条を司法的判断の前審手続を定めたものと解すると、総組合員の一〇分の一以上の同意が得られない限り司法的判断が受けられないこととなり、自己に不利益な議決をされた組合員などにとつて裁判を受ける権利の著るしい制限となる(同条参照)等の事情に鑑みると、なんら司法的判断の前審手続を定めたものとは解されないから、裁判所は、訴訟の一般原則によつて総代会の議決の取消に関する訴訟を判断することができると解すべきである。

ところで、控訴人が総代会の議決の取消事由として主張するところは、昭和四八年一月二五日の理事会は控訴人に対する招集通知の手続をとらないで開かれたから、右理事会における決議には瑕疵がある。控訴人が招集通知を受けて理事会に出席していたとすれば、控訴人の後任理事選任議案を否決できたはずである。そして、本件総代会における議決は右瑕疵ある理事会決議に基づいてなされたものであるから、同議決にも瑕疵があることになるというものである。この主張によれば、本件総代金の議決に取り消し得べき瑕疵があるにすぎない場合であるから、訴訟の一般原則からいつて、なんらの規定もない以上、取消の訴を提起できないものといわなければならない(農業協同組合法九六条により行政庁が取消をした場合は、右議決は無効となる。しかし、行政庁が取り消したことについては、控訴人はなんら主張していない。)。そうすれば、原判決が、控訴人の総代会の議決の取消請求につき、農業協同組合法九六条が司法的判断の前審手続を定めたものであると解し、その手続を経ないことをもつて右請求にかかる本訴を却下すべきものとしたのは、法令の解釈適用を誤つたものであると考える。)。

よつて、原判決中右無効確認の請求に関する部分および取消請求に関する部分を取り消し(無効確認に関する主位的請求部分が不適法として取り消される以上、原審としては、この部分のほか、さらに予備的請求である取消請求についても判断をしなければならないことになる。)、更に審理を尽さしめるため、右部分につき、本件を原裁判所に差し戻すこととし、その余の部分に関する控訴人の控訴を棄却することとし、民訴法三八八条、三八四条一項、九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(満田文彦 鈴木重信 小田原満知子)

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